◎トニー・ベネット~トニーが歌えば、瞬間スタンダード・クラシックに | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◎ トニー・ベネット~トニーが歌えば、瞬間スタンダード・クラシックに

【Once Tony Sings Song, It Became Classic In A Second】

人間国宝。

アンソニー・ドミニック・ベネデット、1926年(大正15年)8月3日生まれ。今年(2013年)87歳。観客層はさすがに年齢層が高い。今回の東京ジャズ最大の目玉がこれ。

トニーの先輩にあたるフランク・シナトラによる声の紹介があって、バンド演奏がスタート。

そして、登場したトニー・ベネットは、背筋もしゃんとして、杖もつかず、普通に歩いてステージ・センターに。いやあ、若い。満面の笑顔とともに、歌い始める。短めの曲が次々と余裕とクラスを持って歌われる。ときにはマイクをけっこう離して歌うが、声がよく通る。まさにアメリカ・エンタテインメント界のドン、王道中の王道という立ち振る舞いだ。どんな曲でもさらりと、何事もないかのように、普通に歌う。そして、それだけで超満員の観客を楽しませ、感動させる。まさにプロフェッショナル。

軽くリズムをとっていた2曲目では、なんとステージでくるりと一回転! その瞬間、一斉に拍手が巻き起こる。じつに可愛いしぐさだった。さすがにこれはレコード/CDだけでは味わえないライヴならではの醍醐味だ。

振り返ってみると、僕自身はたぶん彼の「霧のサンフランシスコ」あたりを40年以上も前に「オール・ナイト・ニッポン」などの深夜放送で聴いて知ったくらいで、それほど熱心なフォロワーではなかったが、ここ10年くらいはアルバムをよく聴いている。特にレディー・ガガとのデュエットなどはインパクトが強く、レディー・ガガによってトニーを再認識させられた側面があった。たぶん、僕自身も年を取ってきたということもあるのだろう。それと常に最近は生の歌声、リアル・ミュージシャンに傾注する自分がいるので、そのあたりからもトニー・ベネットのようなリアル・シンガーを求めるようになっているのかもしれない。

それはともかく4人の息のあったミュージシャンを従えたトニー・ベネットは一挙手一投足から目が離せない。黒いスラックスに白いジャケット、ネクタイとそのいでたち、振る舞い、そして歌などから、徐々にここが東京の国際フォーラムであることを忘れ、ラスヴェガスあたりではないかと錯覚させられるようになった。

はりのある声が会場内に響けば、観客を圧倒し、ささやくように歌えば、観客をさらに集中させる。まさにトニーは5000人の観客を手玉に取るように自由自在に操る。この歌いっぷり、存在感は、本当に人間国宝と言うにふさわしい。

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小粋。

曲を歌う前にほんのちょっとした一言コメントをするのがまた小粋だ。「グッド・ライフ」の前には、「この曲をレディー・ガガにプレゼントしよう。レディー・ガガとは一緒にデュエットをやったんだよ。ちょっと小金が要りようだったんでね(笑)」と言って茶目っ気たっぷりに笑顔を見せる。

どんな曲でもトニーが歌えば、トニー節に、トニーのものになってしまう。それ以上に、仮に今できたばかりの新曲でさえトニーが歌えば、その瞬間からスタンダードになってしまう。それほどの力を持ったシンガーだ。やはり圧倒的に歌の解釈力がすごいのだろう。

途中で気づいたが、彼は最近はやりのイヤーモニター(耳につけるモニター)を使わない。しかも、フット・モニター(ステージに置かれているバンド演奏などの音がでてくるモニター)からもけっこう距離が離れているので、おそらく、本人はバンドの「生音」を聴いて、それにあわせて歌っているのではないかと思う。昔は当たり前だったが、今でもそのスタイルでやっているのだろう。

右手を握り締め、少し上に上げる。くるりと回転する。右手を胸にあてる。バンドメンバーがソロをプレイしているときは、しっかりじっくりとそれを見ていて、終わるや、全身で彼らに拍手を促す。トニーの仕草ひとつひとつが映画の一シーンのように思えてくる。ただステージに立って歌っているだけなのに。

ステージの両サイドには何台ものカメラで撮影されている映像が映し出される。その中でステージ後ろから、トニーの真後ろの姿を捉えた映像がある。トニーの先には暗闇の観客席、上のほうから射す2本のスポットライトがトニーにあたり、少し逆光になる絵など、まさに映画の一こまさながらだ。

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両横綱。

「50年前、ナンバーワンになった曲を歌います。ジョン・F・ケネディーの時代です」 そして「霧のサンフランシスコ」。ひときわ大きな拍手と歓声が巻き起こる。

終盤トニーが語った。「何十年も前、ある古い曲をレコーディングしたら、大ヒットになりました。するとその作者がスイスから一通の手紙を送ってきたんです。『ディア・トニー、私の曲を再び有名にしてくれてどうもありがとう』と書かれていました。私はその差出人が信じられなかったんです。署名にはチャーリー・チャップリンとありました。『スマイル』を歌います」 泣けた。号泣している観客がスクリーンに映し出された。

昔のスタンダードは、歌詞がシンプルで短い。それゆえに人の心を打つ。マイケル・ジャクソンが歌う「スマイル」とともに、トニーのこの日の「スマイル」は、「スマイル」東西両横綱になった。

そして最後の「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」が終わると観客は一斉に立ち上がった。続く万雷の拍手にうながされ、トニーは袖から2-3度でてきた。そして、スタンディング・オヴェーションは長く長く続いた。

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タイムレス。

前日のグレゴリー・ポーターに続いて二日続けてライヴ会場で会った松尾潔さんは、トニーがもう来日しないだろうとオーストラリアのオペラ・ハウスまでライヴを見に行っていた。そのあとにこの来日が発表されたそうだ。クインシーもはるばるモントルーまで見に行ったら、今年来日した。彼はトニーの画集もしっかり持っているそうだ。そう、トニー・ベネットは絵が本当に上手で、歌手にならなかったら、画家として成功していただろうといわれているほどだ。

トニーがこれほど長きにわたって活躍できる理由のひとつに、彼があこがれる日本の北斎の言葉にあったと、最近のインタヴューで語っている。「102歳の北斎が、私はまだ絵を学んでいる、それが気にいっている」という言葉に触発された、という。

INTERVIEW: Hokusai-inspired Tony Bennett on Jazz Bigotry and Lady Gaga - See more at:

http://enjp.blouinartinfo.com/news/story/953911/interview-hokusai-inspired-tony-bennett-on-jazz-bigotry-and#sthash.1Vj5Wmii.dpuf

http://enjp.blouinartinfo.com/news/story/953911/interview-hokusai-inspired-tony-bennett-on-jazz-bigotry-and

トニー・ベネット、100歳まで、いや、それを超えても歌い続けて欲しい。そして、また日本の土を踏んで欲しい。彼の音楽は50年前のものでも、今のものでも輝きを失わない。まさにトニー・ベネットの存在自体が、「タイムレス」そのものだ。

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トニーは、連日テンプラを食べたり、イタリアンを食べたり、土曜日にはブルーノートでカウント・ベイシーのライヴを見たりと東京をエンジョイしているようだ。

トニーの東京の日々。(フェイスブックより)
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.10151715602254902.1073741827.28266459901&type=1

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■ 第12回東京ジャズのNHK-BSプレミアムでの放送予定

【NHK BSプレミアム】
 2013年10月08日(火)23:45~25:14
 10月19日(土)25:25~26:54
 10月26日(土)25:25~26:54


■ 最新・ベスト盤


■ デュエット2


■ オールタイム・グレイテスト・ヒッツ



■ メンバー

Tony Bennett (Vocal)

Lee Musiker (Piano, MD)
Marshall Wood (Bass)
Gray Sargent (Guitar)
Harold Jones (Drums)

■セットリスト
Setlist : Tony Bennett, September 7, 2013 @ Tokyo Kokusai Forum A

Show started 15:14
01. Watch What Happens
02. They All Laughed
03. Maybe This Time – Piano solo – Maybe This Time
04. I Got Rhythm
05. In A Mellow Tone ~ a riff of Sukiyaki
06. Sing, You Sinners
07. Steppin’ Out With My Baby
08. But Beautiful
09. Just The Way You Look Tonight
10. Just In Time
11. Boulevard Of Broken Dreams
12. The Good Life
13. Once Upon A Time
14. Shadow Of Your Smile
15. One For My Baby
16. For Once In My Life
17. That Old Black Magic
18. I Left My Heart In San Francisco
19. Who Cares
20. Smile
21. When You’re Smiling
22. Fly Me To The Moon
Show ended 16:21, standing ovation ended 16:24

(2013年9月7日土曜、東京国際フォーラム・フォーラムA、トニー・ベネット・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Bennett, Tony