世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は政界だけにとどまらず、教育界・学界にも浸透している。
それが「世界平和教授アカデミー」だ。
今月19日のABEMA的ニュースショーで、金沢大学の仲正昌樹教授が、旧統一教会の関連団体についての解説の中で「大学については世界平和教授アカデミーという組織があり、ここが色々なイベントを開いたり、学者にお金を出して留学させるなどしている」と話している。

 

現代評論社発行の月刊誌「現代の眼」1978年4月号に掲載された、ルポライター・佐藤達也氏の文章だ。
前回ご紹介した「国際勝共連合と自民党の人脈」を執筆した人物である。
44年が経った現在でも、旧統一教会の顔を隠した世界平和教授アカデミーの活動は続いている。
やはり今こそ、我々が知っておかなければならない内容であるため、北海道関係者も含んだ当時のアカデミーメンバーのリストとともに全文を掲載する。
 
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世界平和教授アカデミーの正体

 
統一協会=勝共連合はさまざまな「顔」をもっており、このアカデミーもその一つである
佐藤達也(ルポ・ライター)
 
 
二三名から一〇〇〇名へ
 
 文鮮明が率いる統一協会(世界基督教統一神霊協会)はさまざまな「顔」を持っている団体である。主な「顔」をあげれば「国際勝共連合」「国際文化財団」「救国連盟」「復光会」etc……これらは日本統一協会の会長である久保木修己が代表をかねている。そしてこの統一協会のフロント(みせかけの機関)の一つとして以下報告する「世界平和教授アカデミー」がある。この組織は統一協会=KCIAの対日学界工作のためにつくられたものであり、その活動の一端として一〇年後の日本の未来がプロデュースされている。「現代の救世主」文鮮明がさし示す日本の未来とはいかなるものであろうか?
 国電四谷駅で下車し、上智大学キャンパスにそって歩き、ホテル・ニューオータニの側の坂道を下っていくと、クリーム色の紀尾井町TBRビルが見える。近くにはデモの集会場としてよく使用される清水谷公園がある。世界平和教授アカデミーは、この紀尾井町TBRビルの九階、九〇七号室にある。部屋では、一〇人ほどの事務局員が忙しく立ち働いている。室内にはコピーの機械、TVビデオ装置があり、立派な応接室に案内される。せいぜい二、三人の事務局員がいる程度と考えていた筆者は、まず部屋の広さと、事務局員の多さに驚かされ、想像した以上に大がかりな組織だというのが第一印象である。
  「世界平和教授アカデミー」——本会は現代文明の危機を認識し新しい文明的理念の創造を目指す学者・研究者が、自らの学問を通じて現実の諸問題克服のために、国際的かつ学際的に結集する学術機関として、その研究活動を通じて地域社会、国家、国際社会に貢献せんとするものであります(案内パンフより)
 世界平和教授アカデミーは、一九七四年九月二八日、東京で、発起人一三四名で設立された。初代会長には、元立教大学総長・参議院議員の松下正寿が就任している。創立までの経緯は、アカデミー発行の内部資料によれば次の通りである。
 ◎国際文化財団(ICF)の創立者、文鮮明氏の提唱により「日韓教授親善セミナー」及び「科学の統一に関する国際会議」が始められる。
▽第一回日韓教授親善セミナー(七一年七月、東京、テーマ「学生運動の現状と展望」)
▽第二回日韓教授親善セミナー(七一年一二月、東京・経団連会館、テーマ「現代学生の価値観と未来像」)
▽第三回日韓教授親善セミナー(七二年七月、韓国・ソウル、テーマ「世界平和のための大学の使命」)このとき、全体会議のまとめとして平和教授アカデミーの設立が要請された。
▽第四会日韓教授親善セミナー(七二年八月、東京・経団連会館、テーマ「世界平和と新しい世代に対する指導理念」)
 韓国側から「世界平和教授アカデミー」の原案が提出され、日本でも創立の準備を進める。
▽第一回科学の統一に関する国際会議(七二年一一月、ニューヨーク、テーマ「科学の道徳的方向づけ」)
▽第五会日韓教授親善セミナー(七三年四月、東京・経団連会館、テーマ「アジアにおける今日の課題と展望」)日本で二三名の教授により「世界平和教授協議会」発足(七三年六月)
▽第二回科学の統一に関する国際会議(七三年一一月、東京・帝国ホテル、テーマ「現代科学と人間的価値」)
▽第一回世界平和国際会議(七四年四月、韓国・ソウル、テーマ「世界平和とアジア」)
▽「国際文化フォーラム」創刊(七七年五月)
▽第七回世界平和国際会議(七四年七月、台湾、テーマ「アジアの安全と自由世界」)
▽世界平和教授アカデミー創立総会(七四年九月二八日)
 
 以上が設立までの経過であるが、この平和教授アカデミーが、文鮮明一派のダミー機関である国際文化財団(本部ニューヨーク、日本にも同名組織がある)によって創設されたこと、そしてなによりも、韓国側(KCIA)の原案にそって組織されたことがわかる。また同様の組織が「韓国、台湾にあり、近く米国にも創られる」(同アカデミー事務局員、西尾談)とのことである。さしずめ、学者レベルでの日米韓台同盟ネットワークの完成といったところか。
「現在の会員数は一〇〇人を超えていますし、どんどん増えています」(尾脇事務局長)というから、七三年六月に二三名で出発し、七四年九月に一三四名で発足してからわずか数年で急激に大きくなったわけである。
 
日米韓CIAと結ぶ
 
 もう少し世界平和教授アカデミーの実態を紹介すると、現役員は会長松下正寿以下、別表の通り。名高い反共親韓学者が雁首を並べているが、とくに鬼頭事件で云々された京都産業大学は学校ぐるみといった感であるし、筑波大学関係者も多い。中には創価大学教授である野間繁が常任理事に就任している。注目しなければならないのは、規約上なんの権限もない「参与」に名前を連ねている人々である。現対外経済相牛場信彦、郷司浩平日本生産性本部会長、桜田武日経連会長、CIA東京ブランチといわれるアジア財団日本代表ジェームズ・スチュアート、内閣調査室初代室長村井順等と並べば、旧特務期間、財界、KCIA、CIA、JCIAのオンパレードである。この参与のメンバーを見れば、世界平和教授アカデミーの性格が一目瞭然、金脈もはっきりわかる。また事務局も「財界から援助を受けている」ことを認めている。
 同アカデミーは本部役員の他に各地区ごとに地区参与・地区幹事を置いており、工作の手が地方大学まで伸びていることを示している。たとえば札幌地区では、参与に丹羽貴知蔵前北海道大学学長、岩沢靖札幌大学理事長、佐藤貢北海道経営者協会会長、地区幹事として神原富民北海道大学教授が就任、他に仙台、名古屋、金沢、福井、高知、福岡、長崎等に地元大学教授が責任者となっている。
 
勝共連合のシンクタンク
 
 設立までの経緯・人脈・金脈についてはこれぐらいにして、次にアカデミーの活動内容にふれていきたい。
 第一にあげなければならないのは、勝共連合、KCIA筋が主催する種々の国際会議への出席である。この種の国際会議として代表的なのは、創立までの経緯の中に出てきた「世界平和国際会議」(ICWP)と「科学の統一に関する国際会議」(ICUS)である。前者は七四年以降、毎年二回ソウルと東京で開催され、主な議題は東南アジア、とくに朝鮮半島の安全保障問題である。後者は、「学問の行き過ぎた専門化、細分化による弊害を克服するために、科学的知識のあり方を再検討し、科学と価値との関係を究明する。欧米を中心に世界のトップレベルの頭脳を結集し、国際文化財団(本部ニューヨーク、創立者文鮮明師)の主催で毎年開催されている」もので昨年(七七年)は一一月二五日から二七日までの三日間、米国サンフランシスコで、世界五四ヵ国からノーベル賞学者六人を含む五二五人の科学者が参加した(日本からは松下正寿、福田信之など一五人が参加)。会議のメインテーマは、「変化する世界での絶対的価値の追求」で、文鮮明が開会のあいさつをしている。
 平和アカデミーの第二の活動は、日韓議員連盟、日韓親善協会、市民大学講座、区民教養講座等への講師の派遣である。
 市民大学講座、区民教養講座については少し説明がいる。両方とも各都市、区でときどき開かれるが、ゆめゆめ市主催・区主催とまちがえることなかれ。非常にまぎらわしい名称を使っているが、主催は統一教会=勝共連合である。この講座に出席したために原理運動に巻き込まれてしまった例も多い。そしてこの市民大学講座の学長が松下正寿。原理が行くところ松下ありという感じである。なお市民大学講座の謀略的な性格については、七七年四月の衆議院法務委員会で社会党の西宮弘、横山利秋の両代議士が追及し、国会でも問題になっている。
 アカデミーの三番目の、しかも最大の重点活動目標は、「ナショナル・ゴール研究プロジェクト」である。本論の主な課題もこの実態をレポートすることにある。
 "ナショナル・ゴール"などと横文字にすると、なにか不可思議な響きを持つが、直訳すれば「国家目標」、俗にいえば"未来研究"
である。
 この種の未来研究は、今までも多くの未来学者、ハーマン・カーン大先生から香山健一、坂本二郎小先生までさまざまなかたちで出されてきた。しかし、オイルショックから続く世界的不況=世界資本主義の崩壊という現実の前に、最近ではすっかり鳴りをひそめていらっしゃるようである。
 
事実上の「日本戦略研究所」
 
 次に掲げるのは「ナショナル・ゴール(NG)研究プロジェクト企画書」である。
 
 ◯ナショナル・ゴール研究プロジェクト 企画書趣旨文
  戦後三十余年、新しい国家目標設定の必要性が叫ばれて久しい。また、近年国際社会における日本の国際的責任が厳しく問われている。今や国内外から新しい国家目標設定の声が一段と高まっている。
  しかし、日本の政治の現状な混迷の度を深め、目先きのことしか議論がなされていない。これは単に日本の問題であるというよりは、人類全体が大きな文明的転換期にあるために生じた難局である。故に、現代文明の提起する様々の問題を克服し、新しいビジョンの確立をなしてこそ、日本の長期的ビジョンの確立が可能であると言えよう。
  このたびのプロジェクトは十年後、一九八〇年代後半のナショナル・ゴールを設定した。五年〜十年の具体案となるとかなりの学問的研究が必要であり、今日まで出ているいくつかのアイデアを総合し、整合されたトータルビジョンを確立したい。十年後のコンセンサスが可能となれば、次に五年計画をたてて、具体的な達成目標を提示していきたい。ここにおいて、はじめて有意義な論議の土俵が、つくられるのではないか。(以下略)
 一、目的
 (一)、文明的転換期を踏まえ、わが国の国家目標と国策を確立する。
 (二)、この成果をわが国及び世界への提言とし、同時に、この研究活動を通じて学界に創造的息吹きを送りこむ。
 二、目標(略)
 三、基本方針(略)
 四、計画
 (一)、期間は七六年三月〜七九年三月までの三ケ年とする。
 (二)、第一年度は準備段階(七六年三月〜七七年三月)、国内外の類似研究のレビュー、我々の視点の確立。
 (三)、第二年度は研究段階(七七年四月〜七八年三月)、主要テーマの研究、研究シンポジウムの実施。
 (四)、第三年度はまとめ、提言段階(七八年四月〜七九年三月)、国際的調整、シナリオ、各界向けの提言作成。
 五、各研究会
 ◯総合班=加瀬英明部長、総合企画、総合戦略、全体調整。
 ◯総合研究部会(ワーキング・グループ)=ナショナル・ゴール基礎研究、報告書の作成。
 ◯文明と宗教研究部会=松下正寿部長、宗教・思想・科学の統合、宗教とマルクス主義・民主主義の再検討、文明論。
 ◯創造科学研究会=福田信之部長、価値と諸科学の統一、学術風土の改革。
 ◯教育研究部会=古川哲史部長、教育の理念、初等・中等・高等教育、その他。
 ◯安全保障研究部会=佐藤和男部長、安全保障の根本、脅威の実態、防衛の現実。
 ◯政治研究部会=入江通雅部長、国際情勢、共産主義、憲法、マスコミ。
 ◯産業構造研究部会=安芸皎一部長、人口、食糧、資源、エネルギー、産業構造、国際分業システム。
 ◯経済研究部会=経済の安全保障、経済協力福祉問題。
 
 このNG研究プロジェクトには福田信之委員長を筆頭に、副委員長三名、委員二五名が名前を連ねている。中には糸川英夫、川喜田二郎、黒川紀章等マスコミで名が売れている人もいる。SF作家の小松左京も委員の一人である。注目したいのは、中島正樹三菱総合研究所社長、笠井章弘政策科学研究所常務理事、松下寛野村総合研究所常務など日本の代表的なシンク・タンクの責任者が委員に加わっていることである。
 さらに各部会ごとに部長の下に委員・研究協力者が配置されている。宗教と文明研究部会では、協力者として渡部昇一、山本七平、安全保障研究部会には土田隆、広瀬英一、石川貫之など元自衛隊高級将校がそろって参加。教育研究部会には武田清子国際基督教大学教授の名がみられる。
 これらNGプロジェクトの錚々たる陣容を評して、一九八〇年代に向けた「事実上の日本戦略研究所の発足」(山川暁夫氏・評論家)と考えるのも、あながちおおげさではない。米国では、ニクソン大統領時代に十数人の学者・専門家にのる研究グループとして「アメリカ国家目標調査委員会」が設置された。日本では半官半民のNIRA(総合研究開発機構)が七四年三月にスタートしている。
 
ペーパー・プランにあらず
 
 このナショナル・ゴールプロジェクトと他のシンク・タンクの同様の研究との違いをたずねると、「最大の違いは、われわれの研究は単なる未来研究・政策立案ではなく、文明史的観点を持って取り組んでいることです。近頃、西洋物質文明の危機が叫ばれていますが、われわれはこの西洋文明の崩壊を踏まえ、新しい文明の創造もプロジェクトの中に組み込んでいます。そのためとくに研究部会の一つとして松下正寿先生を中心とした文明と宗教研究部会を設けています」とのこと。政治的な立場は、と問うと、「共産主義には反対の立場で研究しています。だからといって右翼的な立場に立っているわけではありません」。その他の特徴は?「学園、大学間の壁を乗りこえた学際的研究であること、さらに国際的研究であること、さらに国際的な視野、とくに環太平洋的視点で問題に取り組んでいます」との答えがかえってきた。確かにナショナル・ゴールプロジェクトの特徴の一つは、高度のイデオロギー性である。先の事務局員氏から、ヘブライズムからヘレニズムへ、科学と宗教の統一云々と高尚な御意見を拝聴したが、結論は「共産主義はまちがっている」に収斂できそうなのでここに紹介しない。結果、彼らの文明史的転換、新しいビジョンなるものも、すべて反共イデオロギーということなのである。
 NG計画の第二の特徴は重点が安全保障と教育に置かれていることである。そもそもこのNGプロジェクトの提案者は筑波大学副学長の福田信之と言われるが、彼がこのプロジェクトを思いついたのは「日本の高等教育の改革、現代における文明の危機が密接に関連する巨大な技術文明のメリットとデメリット、日本の島国根性と民主主義の問題、西洋の単なるまねごとでない創造的な面を開発していくような土壌を日本の教育界に造らねばならない」と考えたからである。そしてナショナル・ゴールに向けた準備段階の過程で評論家の小山雅夫は「日本の独立と安全をいかに確保していったら良いかということが、当間五年ないし一〇年のナショナル・ゴールになる」とNG研究の最優先課題の一つが日本の安全保障問題であることを表明している。
 NG研究計画の第三の特徴は、単なるペーパー・プランの提言ではなく、実践をともなうものであることである。これが老い先短い保守反動の繰り言、街中を軍歌を流して喜んでいる既成右翼(チンドン屋右翼)の大言壮語なら特別問題にする必要はない。しかしNGプロジェクトには、従来の右翼反動とは異質の行動様式と大衆宣伝部隊を持つ勝共連合が控えているのである。
 
高度国防国家を指向
 
 NG研究の最終報告は来年三月にまとめられる段取りになっている。
 昨年一〇月八日から一〇日の三日間、東京国際文化会館で「ナショナル・ゴール研究中間報告会」が開かれ、主に安全保障と教育の問題を中心に報告がなされた。この会議の中間報告を検討すれば、一年後の最終報告の内容が推定可能であろう。
 会議は松下正寿世界平和教授アカデミー会長、佐藤和男(青山学院大学教授)実行委員長の開会のあいさつに始まり、総合戦略、文明と宗教、安全保障、教育、創造科学、の各セクションにそって進められた。総合戦略のセクションでは松下正寿の「自由民主主義・共産主義・宗教の文明論的考察」を中心に論議された。「共産主義は宗教か。たった一点を除き完全な宗教である。故に自由民主主義との闘争には共産主義が強力であろう。共産主義の欠く『たった一つ』とは何か。愛である」と松下流共産主義観をひとくさりぶっている。
 文明と宗教のセクションではイザヤ・ベンダサンこと山本七平が「日本における受容と排除」と題して報告、例の巧みな概念操作をくりかえす。メインテーマである安全保障部会では自衛隊体験入隊を誇りとする評論家の加瀬英明が「日本と北東アジアの安全保障」、元陸幕長の杉田一次が「国家安全保障の根本について」と題して報告。増大するソ連の脅威とアメリカのアジア離れを懸念、日米安保体制の強化と自衛隊の増強を主張、とくに防衛費を現在のGNP一%以内を三%ぐらいにまで引き上げることを求めている。さらに国防教育の必要、経済安保の確立を訴えている。
 もう一つのメインテーマである教育部会では、平岩紀夫愛知教育大学教授が「日本の安全保障と教育」について報告した。この論文は興味深い内容なので詳しく紹介しよう。
 平岩は、まず韓国の人々の国防意識が非常に高いことを称揚しながら、一方で日本人の国防意識がきわめて低いのを嘆き、何故かを考える。その第一の理由として、国防意識の強調、再軍備は旧軍国主義独裁を復活させるおそれがあるが、「安全保障と国防の意識は現在の日本の自由と平和を守るための国防意識であって、日本を軍国主義国家にすることではない。むしろ日本を共産主義独裁国家とすることをおそれるべきである」と答える。
 第二に、一般国民の政治不信をあげるが、これに対しては、「たとえ現在の日本の保守政治にどのような不満があろうとも、とにかく今の日本の自由と平和は保守政治が維持しているのであり、現在の保守政治に対する不満などは、共産主義独裁政権の鋼鉄の規制をくらうことを思えば一瞬にしてふっとんでしまう」と強弁している。そして日本の安全保障を阻害している第三の理由として、一般国民のエゴイズムをあげる。これに対する答えも、すこぶるユニークである。「安全保障のための再軍備の声を聞けば、軍国主義の復活だとさわぐのも無理からぬことかもしれないが、その弱みにつけこんで、反戦だのファッショ粉砕の掛け声をえさにしておびきよせ、人間の生命にも等しいエゴの自由をイデオロギー絶対主義によって弾圧しながら政権を維持するのが共産主義であり、それがわれわれの日常生活を次第に侵略しつつあることを知らねばならない」。
 さて、具体的に国防教育を浸透させる方法としては、①、小・中・高の教育では最も抵抗の少ない自然なかたちで教育する必要がある。②、大学では必修として国防原理を教育するだけではなく、各大学に国防学部を設置する。③、現在の防衛大学校にはこれら新設の国防学部(大学)の最高頂点として、いわばシンク・タンク的役割を果たさせる。
 そして最後に、「小生の実績を言うならば、短波海外英語放送聴取訓練を大学の授業に組みいれることにより、若干の国際状勢の認識を与えつつ、それとなく暗示的に国防の必要を学生に感じさせるべく努力をしてきた。今後はさらに、全国の市民大学においてもできるだけ国防教育を実践するのも一方法であろう」と結んでいる。
 平岩の所論の結論は、軍学協同体を形成し、戦前の陸大・海大の復活をはかれというものである。この平岩の主張が、NG研究の結論を象徴しているように思われる。すなわち、現代流高度国防国家の建設である。
 
巧みな世論工作
 
 この中間報告会に対して、勝共連合の日刊機関紙である『世界日報』は、七七年一〇月一五日付けの社説「ナショナル・ゴール研究への要望」で、NG研究部会が教育勅語に代わる現代日本の精神的支柱となるべき大文章を作成して、日本国民に、その向かうべき道を示してくれることを希望していることを付記しておく。
 最後に世界平和教授アカデミーの"輝かしい成果"にふれたい。世界平和教授アカデミーの謀略性を象徴する二つのケースである。
 「東南アジアの平和と繁栄を考える市民委員会」と名乗る日本の百人の文化人・学者グループが、七七年七月一七日付けの『ニューヨーク・タイムズ』に一ページ大の意見広告を載せた。カーター大統領あての書簡の体裁をとるこの意見広告は、カーター政権の在韓米軍撤退に反対する趣旨が唱われ、作家の阿川弘之、松下正寿元立教大学総長、村松剛(評論家)ら、一〇〇人の著名文化人が署名している。
 この意見広告より半年前の七七年一月三〇日、三一日の両日、東京で「一九七七年の北東アジアの安全保障を考える——朝鮮半島を中心にして」というシンポジウムが開かれた。主催は「防衛問題懇談会」(代表世話人関野英夫)。この会はなんのことはない、「世界平和教授アカデミーの安全保障部会が便宜的に別団体としてつくった組織」(アカデミー事務局)で、いわばアカデミーの別働隊である。そして『ニューヨーク・タイムズ』への意見広告はこの国際シンポジウムを契機に話ができたのであって、「東アジアの平和と繁栄を考える市民委員会」なる幽霊団体の実体は世界平和教授アカデミーということになる。この辺の事情は『朝日新聞』連載の「新情報戦」、『朝鮮時報』(七七年一〇月一二日付け)が詳しく書いている。
 さらにもう一つ、世界平和教授アカデミーの謀略性をあらわす話がある。
 二月四日付けの『読売新聞』は、「日米安保の改定掲げる——民間シンクタンク十五日準備会」の記事を二面(東京本社版・大阪本社版では一面準トップ扱い)に掲載したが、なんとこの背後には世界平和教授アカデミー—文鮮明コネクションがある。この記事の内容は、八〇年代の総合的な安全保障問題の研究を目的とする民間シンクタンク「日本安全保障研究センター」が日経連の桜田武会長および防衛庁長官経験者である自民党の江崎真澄、三原朝雄の各氏らを発起人として近く発足する。その設立趣意書では、日米安保条約第三次改定の必要性と日本自衛隊の大幅増強を訴えており、折りから防衛論議が活発化しているときであり注目されよう、というもの。統一教会=勝共連合=アカデミーの関係については一行もふれられていない。
 調査した結果わかったことは、①、「日本安全保障研究センター」の設立準備事務局と、前述した防衛問題懇談会事務局は同一の場所にあること。②、同センター設立の真の立役者は外交評論家の加瀬英明と京都産業大学教授の花井等であること。両名とも、平和教授アカデミー会員、NGプロジェクト安全保障部会のメンバーである。③、二月十五日、ホテルオークラ別館でセンター設立準備会、記念講演会が開かれたが、これには、スタンフォード大学戦略研究所フォスター所長、ドーナン教授、元在韓米軍司令官スティウェル将軍が招かれた。スタンフォード大のスタッフは、前述の防衛問題懇談会シンポジウムの参加者でもある。またスティウェル将軍は、七七年六月のスタンフォード大戦略研究所の「北東アジアの安全を考える」シンポジウムで講演している。
 余談になるが、二月十六日から第三〇回市民講座が開かれる。会場は船舶振興会ビル。事務局は千代田区永田町のTBRビル。国際文化財団のあるところである。電話をしてみる。受話器をとっても、こちらから話すまではむこうから名乗らない。こちらが「市民大学事務局ですか」と聞けば、そうだ、と答えるし、また「国際文化財団ですか」というと「ハイ、そうです」と答える。「では市民大学講座と国際文化財団は同じなのですか」と聞くと、「違います」と答えるからおもしろい。
 もう一つの余談。国際文化財団、市民大学講座が入居しているTBRビルは、東京ヒルトンホテルのすぐ脇にあるが、同ビルには、日韓議員連盟、日韓親善協会全国連合会、青嵐会の某代議士事務所、大韓旅行公社が入居しており、さながら日韓癒着団体の貸し切りビルの観がある。また世界平和教授アカデミーはもう一つの紀尾井町TBRビル内にあり、同じビルに「福田事務所」がある。
 昨年一一月一九日、KCIAの対米秘密工作を執拗に追及・暴露してきた米下院フレーザー委員会の公聴会で、KCIA暗躍の動かぬ証拠として「一九七六年度KCIA対米工作秘密計画書」が公にされた。この秘密計画書の中で見落としてはならないのは、秘密工作は議会や政府スタッフにだけ向けられたのではなく、言論界・学界・宗教界まで対象にされている点である。
 KCIAの対米工作は、李在鉉元在米韓国公報館長が証言したように、日本で成功した方法が下敷きになっている。残念ながら日本にはフレーザー委員会がない。それどころか、政府・自民党・警察が一体となってKCIAの活動を助けている。
 KCIAと統一教会—文鮮明コネクションが密接不可分の関係であることは論ずるまでもない。冒頭で述べたように、統一教会=勝共連合は百面相である。世界平和教授アカデミーもこの百面相の中の一つである。その正体について、不十分ながら明らかにしてきたつもりである。それにしても、どうしても理解できないことは、千余名の多数の学者がアカデミーに入会していることである。いくら世間知らずの学者バカとはいえ、この点だけは筆者の理解を超える。
「今日のような世界的危機にはニセ救世主、ニセ予言者が現われ、世人を惑わすのが通例である」(世界平和教授アカデミー創立趣旨文から)
 その通り。ニセ救世主とは、ほかならぬ現代のラスプーチンこと文鮮明である。ニセ学者とは、勝共連合御用達の諸先生である。
 
 
⭐︎世界平和教授アカデミー役員名簿
会長
 松下正寿(元立教大学総長)
本部理事
◯安芸皎一(関東学院大学教授)
◯入江通雅(京都産業大学教授)
◯宇野精一(尚絅大学学長)
◯大石泰彦(東京大学教授)
 奥原唯弘(近畿大学教授)
◯加瀬英明(評論家)
 嘉村祐一(青山学院大学教授)
 川西誠(日本大学教授)
◯気賀健三(成城大学教授)
 福田俊夫(日本大学教授)
 坂田善三郎(独協大学教授)
 坂田亮(慶應義塾大学教授)
◯佐藤和男(青山学院大学教授)
 関野英夫(軍事評論家)
◯田中直吉(東海大学教授)
 鳥羽欽一郎(早稲田大学教授)
 中屋健一(成蹊大学教授)
 丹羽春喜(京都産業大学教授)
◯野間繁(日本学術会議常任委員長)
 弘津恭輔(総合研究所研究員)
 房村信雄(早稲田大学教授)
 藤田豊(東京電機大学教授)
◯古川哲史(亜細亜大学教授)
 松本達治(京都産業大学教授)
 三諸信吾(高崎経済大学教授)
 本山博(宗教心理学研究所所長)
 矢島鈞次(東京工業大学教授)
監事
 緒方浩(緒方法律事務所所長)
 黒沢清(前独協大学学長)
参与
 赤堀四郎(大阪大学名誉教授)
 荒木俊馬(京都産業大学総長)
 石川六郎(鹿島建設副社長)
 石館守三(日本薬剤師会会長)
 糸川英夫(組織工学研究所所長)
 牛場信彦(元駐米大使)
 金子泰蔵(国際商科大学学長)
 金山政英(国際関係共同研究所所長)
 神川彦松(東京大学名誉教授)
 木内信胤(世界経済調査会理事長)
 桑原寿二(総合研究所中国研究部長)
 香坂要三郎(大阪大学名誉教授)
 郷司浩平(日本生産性本部会長)
 近藤道生(博報堂社長)
 斉藤英四郎(新日本製鉄副社長)
 桜田武(日経連会長・日清紡相談役)
 ジェイムズ・スチュアート(アジア財団日本代表)
 坪内嘉雄(ダイヤモンド社社長)
 中島正樹(三菱総合研究所社長)
 西谷啓治(京都大学名誉教授)
 松崎芳伸(日経連専務理事)
 三鬼陽之助(経済評論家)
 三輪知雄(前筑波大学学長)
 村井順(日本国際問題研究所常務理事)
 湯浅八郎(国際基督教大学名誉総長・理事長)

地区参与

▽札幌=岩沢靖(札幌大学理事長)、川村秀雄(北海タイムス会長)、丹羽貴知蔵(前北海道大学学長)、佐藤貢(北海道経営者協会会長)

▽仙台=大久保道舟(東北福祉大学学長)、吉田賢抗(東北大学名誉教授)、水野為武(東北大学名誉教授)

▽名古屋=桑原幹根(前愛知県知事)

▽金沢=高瀬武平(金沢大学名誉教授)

▽福井=金井兼造(金井学園理事長)

地区幹事

▽札幌=神原富民(北海道大学教授)

▽仙台=岡田克己(東北大学助教授)、上田宏(東北学院大学教授)、曾根清秀(宮城教育大学教授)

▽前橋=野中義夫(足利工業大学教授)

▽関西=岡本幸治(大阪府立大学教授)、笠原正明(神戸外国語大学教授)、大鹿譲(大阪工業大学教授)

▽高知=山崎重明(高知大学名誉教授)

▽福岡=末松慶和(元中村学園大学教授)

▽長崎=久保為久磨(長崎大学教授)

▽鹿児島=川井修治(鹿児島大学教授)

注一 会長・理事・監事は「世界平和教授アカデミー・ごあんない」から、参与・地区参与・地区幹事は、七六年一二月発行(推定)のパンフから。現在変更あり。

注二 理事の項◯印は常任理事。

注三 会員名は、「迷惑がかかるから」とのことで非公表。七四年結成時の名簿は、茶本繁正編『原理運動の研究』資料編1に収録されている。