神奈川が7年ぶり4度目の制覇!
   エースがアンカー勝負で決めた



駅伝時評web-11ej


 東日本女子駅伝は11月13日(日)福島市で行われ、吉川美香をエースに持つ神奈川が、大会新記録となる2時間16分57秒で7年ぶり4回目の優勝を果たした。2位は終始神奈川とトップ争いを演じた長野。連覇を狙った千葉は序盤の出遅れがひびいて3位、地元の福島は4位となった。
 前半から中盤にかけては長野が先頭に立ち、むしろレースを支配する展開だったが、7区で神奈川が台頭、レースはアンカー決着にゆだねられた。神奈川の吉川美香と長野の小田切亜希は激しくトップ争いをくりかえし、トラック勝負にもちこまれたが、最後は地力に勝る吉川がラストスパートで振り切った。
5位には前半から終始、上位につけていた埼玉、6位にはようやく後半のびてきた東京、7位には埼玉と同じく前半をひっぱった栃木、8位には秋田がはいった。


◇ 日時 2010年 11月 14日(日)12時01分スタート
◇ コース:福島市信夫ヶ丘競技場~国道4号~国道115号~フルーツライン折返し日本陸連公認「FTVふくしま」マラソンコー        ス 9区間 42.195km
◇ 天候:出発時 くもり  気温14.0度 湿度75% 風:西南西 0.7m(出発時) 
◇ 神奈川(米津利奈、中村仁美、今村咲織、松本菜穂、加藤麻美、竹内あさひ、佐藤ひとみ、木下友梨菜、吉川美香)

◇詳しい総合成績はこちら
http://ekiden.fukushima-tv.co.jp/win27.pdf



▽いろんな意味で前代未聞!


 わが家では福島産の野菜や果物ををこだわりなく買っている。あの原発事故があってから、福島産の野菜はかなり価格がさがっているようだ。放射性物質に汚染されているかどうか。そんなことはどうでもよいのだ。ぼくらの年齢になると、もう20~30年先の展望はない。たとえ被曝しようと、そんなものは、もう関係がないのである。
 だが、自家に育ち盛りの児童、あるいは中学、高校生がいたらどうだろうか。一転、かなり神経質になるだろうな…と思う。放射線の問題は、あまりはっきりしていないから、つねに最悪のケースを想定して、ものごとを判断するだろう。市販されている品は基準値を下回っているといわれても、基準値自体がダブルスタンダードの産物だから、おそらく避けて通るだろう。
 さらに……。わが身になぞらえて考えてみる。もしかりに中学生、あるいは高校生のこどもがいて、彼あるいは彼女が陸上競技をやっていいて、福島市でおこなわれる東日本女子駅伝の県代表に選ばれたとしたら、いったいどのように処したであろうか?
 県代表といのは本人はもちろん親にとっても殺し文句になる。だが……。あなたのお子さんを代表に選びましたが、この同意書にサインしてください……といれ、書面をみると、大会出場後、体調不良などがあっても、賠償等を一切求めません……などというような内容の文面だったら、どうするだろうか。ちょxっと考え込んでしまう。アナタならどのように考えますか?
 大会のある関係者から、親からそういう一札をとった選手だけを選んだという、まことしやかな話も耳にはいっている。
 要するに、すべては選手サイドの自己責任の問題にして、主催者側はするりと逃げてしまっているのである。そんなふう考えると前代未聞の異常な大会だったというほかなかろう。



▽ふたたび存在意義を問う!


 大会コースにあたる福島市の一帯はいまでも放射線量が高い、放射線管理区域になっている。そんなところに将来母親になる少女たちを走らせて良いはずはない。同意書までとって開催しなければならない理由はどこにあったのだろうか。いまだによくわからない。 被災地の復興に寄与するために……という想いはよくわかる。けれども、なぜ、福島市なのか。今回だけ、たとえば線量のひくい会津若松にするとか、もっと、いろんな選択肢があったはずだ。事実、高校駅伝の県予選は若松でやっているではないか。
 もっといえば、東日本女子駅伝というものの存在理由も、いまひとつよくわからない。かたちとしては1月に京都でおこなわれる全国都道府県対抗女子駅伝の東日本版だが、西日本には、こんな駅伝大会はない。東日本だけの大会である。
 全国女子駅伝とつながりがあるわけでもない。さらに、この時期での開催はかなりのムリがある。中学生は全国大会の地区予選がおわった直後にあたる。高校生は全国大会の地区予選のさなかである。実業団の選手たちにとっても全国大会の予選と本選の狭間になっている。
 いずれにしても代表になるような選手はすでに予選を走り、本戦にむけて調整中の時期に当たる。なかでも高校駅伝の県予選とはかなりのニアミス状態にあり、たとえば数年前まで埼玉なんかは大会当日が県予選とダブっていたのである。
 選手たちはスケジュール的にみて、かなりタイトな情勢のなかから出てくるというのが実情なのである。
 


▽迫真のアンカー勝負!


 ちょっと大げさだが、女子長距離の歴史が変わるか……と、思わず身を乗り出したシーンがあった。
 最終9区のアンカー区間である。
 8区までびっしりと競り合い、ほとんど同時にアンカーにたすきがわたった長野と神奈川、勝負の決着はアンカーにゆだねられた。
 神奈川はいまや日本を代表する長距離ランナーというべき吉川美香、長野は名城大3年のの小田切亜希であった。
 吉川はタスキをうけると同時に前に出てゆき、あっさりと小田切を振り切ったかにみえた。誰の目にもkの時点で勝負はきまったと映ったはずで、ぼくなんかはテレビから視線をはずして新聞を読むはじめていた。
 ところが、小田切はそれほど引き離されなかった。吉川は出鼻で決着をつけて、安心していたのか。それとも若い小田切を軽く見ていたのか。おそらくナメきっていたのだろう。
 レースが動いたのは7㎞すぎであった。
 ゆうゆうトップを走っていた吉川と小田切の差は一気につまった。そして7.3㎞あたりで小田切が吉川をとらえて抜き去ったのである。
 軽快なリズムに乗る小田切、逆に苦しげにあえぐような吉川……一気にテレビに身を乗り出してしまった。
 このままでは、あるいは……。もし小田切が吉川を食うことがあれば、小田切にとっては大きな自信になるはずで、たとえば一昨年の国際千葉駅伝で吉本ひかり(佛教大)がケニアのヌデレバを食ったときのように、一気にジャンプアップするやもしれない。女子長距離に超新星の出現か…と色めきたったのである。
 だが、一気に引き離せなかったのが命取りになってしまった。顔をゆがめてけんめいに食い下がる吉川、トラック勝負になってよみがえった。吉川は1500mの日本記録保持者である。小田切もスピード勝負にもちこまれてはどうしようもなかった。まるで寸法を測ったかのように、最後の最後で吉川に並ぶまもなく抜かれてしまった。
 あと一歩のところまで肉薄しながら、大魚を逃した小田切、最後の最後で面目をたもった吉川の笑顔よりも、敗れ去った小田切の悔しさのにじんだ苦しげな表情がいまも鮮明に脳裏にのこっている。



▽見どころのあった神奈川と長野のせめぎあい


 混戦といわれたものの、レースの構図はいがいに単純だった。
 だいたい、このレースは中学・高校生がそこそこならば1区と9区に力のある一般(大学生・実業団)選手を配したチームが優位に立つ。
 1区で先行したのは積水化学の清水裕子という日本代表クラスのランナーを配した長野であった。ライバルの神奈川は7位とまずまずだったが、連覇をねらう千葉はなんと53秒遅れの14位、ここで圏外に去ってしまった。
 2区では神奈川がパナソニック・中村仁美の区間賞で一気に13秒差の2位までやってきて、優勝争いに加わってくる。
 3区、4区は3㎞と短い区間だが、埼玉と栃木が強かった。埼玉は3区で和田香、4区では栃木の小林由佳が区間賞で追い上げ、トップ長野のあと、栃木、埼玉、神奈川が20秒差いないにつけるというありさま、以降7区までは、この4強が優勝戦線にのこっていた。
 4強のはげしいしのぎあいのなかから、ようやく8区で神奈川と長野が抜け出して、マッチアップにかたちになっていったのである。とくに長野と神奈川のつばぜりあいは、観るレースとして迫力があった。
 優勝した神奈川は7年ぶり4度目の制覇である。神奈川の2時間16分57秒、2位・長野の2時間17分03秒もともに大会新記録、上位6位までが2時間20分を切るというハイレベルのレースになったのは、上位が最後まではげしく競り合ったからだろう。



▽中・高生がひっぱる埼玉、栃木が健闘!


 とくに最後の見せどころというべきか。神奈川と長野のアンカー勝負で、ひとたび抜かれた吉川美香が、粘りに粘って、トラック勝負で長野の小田切亜希を再逆転してゴールにとびこんだ。
 苦しくても最後まであきらめないという両ランナーの姿勢が、あるいは被災地の観衆を、いくらかでも勇気づけることにつながれば、それはそれで意味があったということができそうである。
 両チームのほか健闘したのは埼玉と栃木である。両チームともにアンカーに力のある実業団の選手をもたないだけに、最後は失速して5位と7位に終わったが、中盤から後半にかけては優勝争いにからんでいた。とくに中学生と高校生が強くて、中盤はむしろレースの主役をアタしていて、見るべきものがあった。
 連覇を千葉は最後は地力で3位までやってきたが、優勝争いにからんでいなかったのでそれほど評価はできない。このチームは前半の遅れがすべてであった。6位の東京にも同じことがいえるだろう。



■総合成績
1 神奈川 2時間16分57秒◎
2 長 野 2時間17分03秒◎
3 千 葉   2時間18分55秒
4 福 島 2時間19分19秒
5 埼 玉 2時間19分22秒
6 東 京 2時間19分28秒
7 栃 木     2時間20分03秒
8 秋 田     2時間20分13秒
9 新 潟     2時間20分23秒
10 宮 城     2時間20分57秒
11 北海道    2時間21分58秒
12 茨 城     2時間22分12秒
13 山 形     2時間22分45秒
14 山 梨     2時間23分04秒
15 群 馬     2時間23分32秒
16 岩 手     2時間24分47秒
17 青 森     2時間27分06秒
18 チーム絆   2時間29分09秒

■区間成績
1区(06.000km) 清水 裕子 (長 野)   19:04
2区(04.000km) 中村 仁美 (神奈川)   12:58
3区(03.000km) 和田 春香 (埼 玉)   09:58
4区(03.000km) 小林 由佳 (栃 木)   09:18
5区(05.087km) 土井友里永 (千 葉)   16:21
6区(04.107km) 内藤早紀子 (千 葉)   12:44◎
7区(04.000km) 中山  咲 (埼 玉)    13:01
8区(03.000km) 小口 雪音 (長 野)   09:15
9区(10.000km) 吉川 美香(神奈川)  32:25