いい加減に飽きて来たが、いまだ「STAP騒動」は続いている。週刊現代の最新号には、
「だから日本の理系はダメなんだ!」
との記事が踊る。いやいやいや、「日本の理系」と十把ひとからげにするのはおかしい。
ダメなのは、早稲田大学先進理工学部であり、理化学研究所なのだ。

STAP論文の告発サイトから芋づる式に発覚したのは、早稲田大学先進理工学部に連綿と伝わるコピペ文化であった。先進理工学部が発足して7年。その間に博士号を授与されたのが270人。1年間に40人弱という博士の粗製乱造である。当然のように担当教授(博士論文の主査、副査)は論文内容をきちんと読まない(読めない)。読まれない論文は当然、コピペなどの手抜きになる。小保方晴子氏はごく普通に空気を吸うように、先輩に倣ってコピペでレポートや論文を済ませることを習慣にしていたのだろう。その延長線上のコピペだらけの「STAP論文」。万が一、「STAP細胞のようなもの」が発見されたとしても、彼女はただ着想を述べただけ。第一発見者とはとうてい認められない。理化学研究所の再調査を待つまでもなく、エセ博士の小保方氏はレッドカード一発退場と願いたい。ニコニコ動画でのコメントで見たように記憶するが、
「『STAP細胞』なんかどうでもいいから、ここは一発、オイラと『受精卵』作ろうぜ!」
(//∇//) イツモノ、シモネタ、イヤ~ン♡


おぼちゃん

そして一方の理化学研究所。独立行政法人とは言え、実質的には親方日の丸の研究所である。多くの旧国立研究所がそうであるように、大型プロジェクトと称して大量の税金を使う割には研究成果はよく分からず、形ばかり立派な報告書を提出して事足れりとする官僚組織。「形ばかりの」で言えば、10年くらい前にも理化学研究所では論文ねつ造事件があったが、その病根が断たれることはなかった。「大型プロジェクト」で言えば、「タンパク3000」なる500億円超のプロジェクトは目立った成果を挙げることもなく、プロジェクト跡地は「廃墟」になっている。今回の「STAP細胞」でも、笹井芳樹副センター長(52)が大型プロジェクトをブチ上げようとしたのがつまづきの始まりだった。そこには36才で京大教授になり、ノーベル賞も近いと言われていたところに、外様の山中伸弥教授がノーベル賞を取ってしまったことへの嫉妬と怨嗟もあっただろう。

ともかく、
「早稲田大学先進理工学部+理化学研究所」という「最悪の組み合わせ」
が、「STAP騒動」の元凶であり、後のブログでこの「STAP問題」の根っこを説明している。
⇒「確信犯的STAP細胞不再現はスマホLINEが原因?:起承転結を反面教師に文章技術はレゲットの樹で



ここまでは前フリで、この記事の主眼として「日本の理系」の中にもすごい研究者がいることを紹介したい。もちろん秀才はあまたいるが、そんじょそこらの秀才でなく、
「まごうかたなき天才」
を紹介する。

天才の名は大栗博司(おおぐり ひろし)氏(52)。理論物理学(素粒子論)の研究者であり、重力とその他の力(電磁気力など)を統一する超弦理論を研究している。その内容は他所に譲るとして、氏の経歴をネットや書物から書き出してみる。

18才で京都大学理学部入学。22才で京大大学院理学研究科修士課程に首席入学(大学院入試結果1位)。通常5年間かかる課程博士号取得を待たずに、24才で東京大学理学部助手(後に27才で東大論文博士号取得)。26才でプリンストン高等研究所(アインシュタインがいたところ)研究員。シカゴ大学の天才、南部陽一郎教授(2008年ノーベル賞)にスカウトされ、27才でシカゴ大学助教授。1年で帰国し、28才で京大数理解析研究所助教授。海外の多くの大学から教授就任要請を受け、32才でカリフォルニア大学バークレー校教授。38才でカリフォルニア工科大学(ファインマンらがいたところ)教授に転身。45才でカブリ財団の冠教授を兼任。ほぼ同時に設立された東大カブリ数物連携宇宙研究機構の主任研究員を併任。この研究機構設立の目的の一つは、大栗氏に日本における研究拠点を与えることだったのであろう。

並べるのもおこがましいが、同学年の笹井氏が36才で京大教授に就任する4年前に、すでに大栗氏は請われてカリフォルニア大学の教授に就任している。大栗氏の研究内容を理解せずとも、天才・南部を始めとする世界の多くの碩学が彼をスター研究者として招へいしたことからも、氏の天才は納得できよう。大栗氏の天才ぶりを語るエピソードとしてまことしやかに伝えられるのは、京大入学時にすでに大学4年分の学問に習熟しており、彼の出席する大学の講義は教授との問答で進んでいたとのことである。そんな大学生であったゆえ、大学院入学直後に発表された最先端の論文(超弦理論の!)を教授らに解説するなど、優秀な大学院生が数年かかってやっとというレベルを遥かに凌駕していた。

もっとも、シカゴ大学を1年で辞めてしまったのは、彼にとってはちょっとした挫折だったようである。単行本「古都がはぐくむ現代数学: 京大数理解析研につどう人びと」によれば、シカゴ大学で助教授という管理・運営の責務を負い、研究どころではなかったらしい。「これは自分の求めるものではない」と考え、さっさと京大に助教授のポストを得たのだった(辞めてすぐに京大助教授職に就けるのもすごいものである)。さすがに教授になった頃には管理職仕事も苦にならなくなっただろうが、それでも現在、東大カブリ数物連携宇宙研究機構長は看板研究員の大栗氏でなく、村山斉氏(50)が担っている(村山氏は研究機構の「顔」として、しばしばテレビや科学雑誌に登場している)。



ここまで読んで頂いた読者諸氏は、
「へぇ~、日本人にもそんな天才がいるなんて知らなかった。」
というのが率直な感想だろう。科学者などノーベル賞を受賞するまで一般には認知されないのが世の常である。山中伸弥氏も2012年の受賞までどれほどの人が知っていただろう。拙記事、
iPS細胞、ノーベル賞は逃したけれど
を書いた2011年当時は山中氏の「認知度」はせいぜい0.01%(日本人1万人)くらいだっただろう。ノーベル賞を受賞した今や、山中氏の認知度はおそらく数%(日本人数百万人)にのぼると思われる。

本これに対して現在、大栗氏の認知度はというと、おそらく0.1%(日本人10万人)くらいである。これは氏の啓蒙3部作、
#1.「重力とは何か」(2012/5/28)
#2.「強い力と弱い力」(2013/2/8)
#3.「大栗先生の超弦理論入門」(2013/8/21)
の発行部数がほぼ10万部だからである。しかし、これらの一般向けの著作が世に出るまでは、氏の認知度は0.001~0.01%(日本人数千人)だっただろう。

そう、いかに天才と言えどもその名はなかなか世に知られないものである。いや、天才だからこそ世に知られないのである。天才がゆえにその業績を理解できる人はほとんどいないからである。天才以外が「空間とは幻想だった」などと口にすれば、狂人として精神病棟行きかも知れない。周りに理解されないゆえに、
「天才の孤独」
がある。

邪推かも知れないが、大栗氏は大学入学まで長らく孤独だっただろう。周りには自分の理解する学問を理解する人がいないという孤独。そして、大学院、アメリカでの研究生活で「話の分かる」知り合いを増やし、徐々にその孤独は溶けて行った。それでもいくら素晴らしい業績を挙げようとも、一般には自分を知ってくれる人がほとんどいない。
「僕はこんなことを見つけた! 僕はここにいる!」
そんな思いが上記の3部作を書かせたのではないかと思う。もちろん、諸々のお金を頂いて研究をしていることに対する社会奉仕・還元の意味もあろうが、もっと本能的な部分では、
「孤独からの脱出」
が彼に3部作を書かせたのだろうと思う。上掲の#3を氏の「半生記」「自叙伝」として読むと、ふとそんな思いがよぎるのである。

「でも、大栗さんがノーベル賞取ったら認知度は山中さんくらいになるわよね。」
とお思いの読者さんもおられるだろう。しかしながら私見によれば、大栗氏のノーベル賞受賞はそう簡単ではないだろう。彼の研究している重力とその他の力の統一理論は、現在のテクノロジーでは決して実験的に証明できないからである。数百年後、彼の理論が正しかったことが証明され、「物理学の天才」と言えば、
「ニュートン-アインシュタイン-大栗」
と一般に知られることになるのかも知れない。大栗氏自身も自分の死後にしか評価されない、言わば、
「無私の研究の寂しさ」
を感じていたのではないだろうか。限りある人生の中で「自分が生きた証」を残す一つの方策が上記の3部作だったのではないかと想像している。



しかし、である。先月、ちょっとしたニュースがあった。小耳にはさんだ読者の方もおられるかも知れないが、
ビッグバンの際の重力波(原始重力波)が観測されたかも知れない
という報告である。昨日(4月21日)付け朝日新聞の解説記事を添付する。


重力波


原始重力波の詳細は重力理論(一般相対性理論)とその他の力の理論(量子力学)を統一した理論でしか説明できない。まさに大栗氏が発展させつつある超弦理論が観測結果をつまびらかにするものである。上の記事に寄せた大栗氏の解説から大栗氏の興奮が伝わって来る。


コメント


原始重力波の観測をより精緻なものにし、その一方で超弦理論を研ぎ澄ませていけば、大栗氏のノーベル賞は近いかも知れない。老婆心ながら、10年くらいの間に、
「天才・大栗ゆえの孤独という呪縛」
から解き放たれることを切に願うものである。

道に迷うことなく頑張れ、孤高の天才よ!



孤高の天才

…あー、君は道に迷ったみたいだねw



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